友達が親と喧嘩して家出中なの。
行くところがなくて心配だから、うちに泊めていい?
「夜22時過ぎに、子どもからこんな電話がかかってきたんです…」と話すCさん。
交友関係が広いお子さんに対して、安心感と不安感、どちらも持ち始めていたところだったそうです。
実際にどうされたか、お話を聞いてみました。
突然、他中学の家出少女を連れ帰った日
Cさんのお子さんは、とっても社交的で話しやすいタイプの女の子だそうです。
そして、インスタグラムのアカウントを持っているので、友達から友達へ…とフォローがつながり、1,000人以上のフォロワーがいるほどでした。
もちろん、フォロワーは同じ中学だけでなく、近隣の複数の中学にまたがっていたそうです。
本人も学校で目立つグループにいるタイプですが、フォロワーとしてつながっている中学生たちも、それぞれの中学で目立つタイプのお子さんが多かったようで、中には、校内外で騒ぎを起こすような悪目立ちするタイプもいました。
なので、Cさんは、娘さんの交友関係が広くて楽しそうな姿は安心感を感じていたものの、いつかトラブルに巻き込まれないか…と不安も感じていたとのこと。
そして、ある日、冒頭のような連絡をしてきたのです。
別の中学の友達が親と喧嘩して家出中なの。行くところがなくて心配だから、うちに泊めていい?
小学校が一緒だったTちゃん。お母さんも覚えてるでしょ?
Tちゃんのお父さんもお母さんも、怒ると手をあげるみたいでかわいそうなの。見つかると連れ戻されるから、うちにいることも言わないでほしいの。
と、ツッコミどころ満載の要望です。
「それはムリな話」というやり取りを何度かしていたら、
実はもう、うちの前まで来てる。
入れてくれないと23時過ぎて補導されちゃう。
となってしまいました。
その家出少女Tちゃんは小学校が一緒だったため、お母さんの連絡先は知っていたものの、ほとんど会話したことがなかったそうです。
Cさんは、正直なところ、「なんでうちなの…」と思ってしまったとか。
でも、「大切な友達なの」という我が子に対して、「その子をそのままにして、あなただけ帰ってきなさい」とも言えません。
言ったとしても、言うことを聞かずに、自分の娘まで帰ってこない可能性があります。しかも、この日も翌日も平日で翌日は学校もあるし…。
家出しないようなお子さんも世の中にはいっぱいいるのに、よりによってなんで家出少女と仲良くなっちゃうんだろう…。
ついついそう思ってしまいつつ、しょうがないので、受け入れたのでした。
家出少女を受け入れなければ…と悔やむ出来事
とはいえ、未成年の中学生のお子さんを保護者に連絡せずに泊めることはできません。
- Tちゃんのお母さんへCさんから連絡すること。
- 翌日は二人とも、学校に間に合う時間に出て、ちゃんと学校へ行くこと。
これらを話し合い、泊めることにしました。
そして、Tちゃんのお母さんへ連絡したところ、「迎えに行きます」と言われたそうですが、「時間ももう遅いこと」「翌日は学校に行く約束をしたこと」をお伝えして、「申し訳ありません。よろしくお願いします」となったのでした。
翌朝になり、娘たちを送り出して、これで終わった…そう思っていたのですが…。
お母さん、ごめん。
学校から連絡があるかも。
と、夕方帰宅した娘さんに言われたそうです。
Tちゃんから娘さんに連絡があり、「親から怒られるから帰宅したくない。でも、もうどこにも行けないから帰らなくちゃいけないから、学校まで迎えにきて、自宅まで一緒に帰ってほしい」と言われたとのことで…。
引き続き、心配していた娘さんは、その連絡を受けて、Tちゃんの学校へ行き、誘われるがままに学校に入っていってしまったのです。
娘さんはその時、家出少女のジャージを借りて着ていたから大丈夫だと思ってしまったらしく…。
すると、「他校の生徒が侵入している」となり、複数人の先生に追いかけられて、慌ててしまった娘さんは猛ダッシュで逃げてしまったということでした。
でも、その学校の先生に捕まってないから、私だってバレてはないかも…。
それにしても、その学校のジャージを着ていたのに他校の生徒は入っちゃダメなの?
そう言われ、言葉を失うCさん。
じゃあ、あなたは、同じ苗字の表札が付いている家だからって、自分の家のように勝手に入るの?
細かい設定は違うけれど、それと同じようなことを言ってるのよ?
と言うと、「それはたしかに…」となったのでした。
次から次へと娘に起こるトラブル
すぐには学校から連絡は来なかったのですが、その間にまさかのもう一波乱が…。
家出少女Tちゃんは、自宅に帰るようになったものの、今度は学校に行かずに遊び歩くようになったとのことでした。
Cさんの娘さんは、ちゃんと学校に行っていたのでよかったのですが、Tちゃんと仲の良い他校の不良男子生徒たちが、一緒に学校をサボって遊んでいたそうです。
そして、「C娘もいたらな〜」というTちゃんにいいところを見せたかった不良少年たちは、娘さんが通っている中学に侵入し、授業中に「C娘〜!」と叫びながら、廊下を徘徊したという話でした。
騒ぎを聞きつけた先生方が不良男子生徒を捕えようとしましたが、すり抜けて逃げたそうで…。
娘さんは騒ぎが起きていたところから遠い教室だったため、「なんか騒がしいな」程度にしか思ってなかったそうですが、あとから担任の先生に「こういうことがあったが、心当たりあるか?」と聞かれました。
先生から聞いた不良少年たちの特徴を聞いて、すぐに「Tちゃんと仲のいい男の子たちだ」と察した娘さん。
「多分、心当たりあります…」と先生に答え、そして、娘さん自身の他校への侵入事件の話も出て、結局、Cさんに学校から電話がかかってくる事態となったのです。
「理由はどうあれ、娘が関連していたり、起こした事実なので、ちゃんと対応するしかない」と、Cさんは思いましたが…。
ショックだったのは、あれほど親子で親身に対応したTちゃんが、「自分は何も知らない。学校に来たのもC娘が勝手にやったことだし、不良少年たちがC娘の学校に行ったのも知らない」と我関せずを貫いたことでした。
実は、Cさんには、もう一人お子さんがいて、当時、高校生のお兄ちゃんがいました。
そのお兄ちゃんは、中学生時代に友人関係がうまくいかず、不登校だった時期があって、悩ましい思いをしたことがあります。
なので、社交的でどんどん友達が増えていく娘さんに、当初は安心していたそうです。
ですが、多ければいいというわけではない友人関係。
親が付き合う友人を選ぶわけにはいかないけれど、「これはない…」と、お兄ちゃん時代とは違った理由で頭を抱えるようになってしまったのです。
響かない母の声。娘の心に響いたのは…
親が友達を選ぶわけにはいかないといっても、このまま放置するわけにはいきません。
Cさんは、娘さんにこのように訴えかけました。
- 友達を大切に思う心優しい子に育ったことは母として嬉しい。けれど、娘がどんなに心配して親身になっても、Tちゃんは自分に都合の悪い状態になったら裏切るような子だ。
- 母としては娘が大事。だから、Tちゃんのために自分に悪影響となるようなことはせず、自分を大切にしてほしい。
- このようなことが続くと学校の評価も悪くなり、行きたい高校にも行けなくなるかもしれない。
- あなたが友達を大切に思うのと同じく、あなたのことも大切にしてくれる友達と付き合ってほしい。
同じ親の立場としては、痛いほどわかる気持ちではないでしょうか。
しかし、娘さんには響かなかったのです。
それまでの親子関係に問題があったわけではありません。
それこそ、「お母さん、大好き!」と誕生日にお手紙をくれるような親子関係でした。
でも、そのときの娘さんにとって、「Tちゃんは自分が守らなくては…!その気持ちをわかってくれない、助けてくれない母なんてもう知らない!」ということだったらしいです。
実際に、Tちゃんは、ご両親に手をあげられ、顔を腫らしていることもあったそうで、心配な環境だったことは確かです。
娘さんは、「Tちゃんをうちに引き取れない?なんか里親っていうのあるんでしょ?」とまで言っていたそうで…。
ですが、Cさんはその時、冷静にこのように答えました。
- 未成年の子どもを保護者の同意なく連れ去ることは誘拐になって、こっちが逮捕されるような話。
- 里親制度っていうのも、勝手に「里親になります!」と決められることじゃない。児童相談所が保護した児童と里親登録した大人に対して、公的機関が間に入って決めること。
- だから、お母さんができることは、児童相談所に通報することくらい。
真っ当な話だと思いますが、娘さんは、お母さんが言っていることを理解しつつも、その内容より、お母さんが自分に寄り添ってくれないことに苛立ちを感じてしまったのです。
「もう、どうすれば…」と頭を抱えていたCさんですが、突然、娘さんが我に返ったようになったのです。
そのきっかけは、担任の先生と同じ中学の仲の良い友達でした。
学校侵入事件や不良少年侵入事件で、放課後、学校に呼び出されたCさんと娘さん。
担任の先生が、普段の娘さんの授業態度や先生とのやりとり、部活の様子や友達との関係などを褒めつつ、「自分を大切にしてほしい」と言ったこと。
帰宅してから、「話ちょっと聞いたよ。Tちゃんって子、C娘の本当の友達だと思わないよ!私たちはC娘が大切だよ!」といった、同じ中学校の仲の良い複数の友達からのメッセージ。
帰宅してから、「なんか、目が覚めたかも…」と泣きながら座り込む娘さんを抱きしめたのでした。
親とは…やりきれない思い
「我に返ってくれてよかった」
Cさんはそう思うものの、やりきれない思いもあります。
だって、担任の先生が言ったことも、お友達が言ったことも、どれも自分が先に伝えたことです。
正直、担任の先生より、お友達より、娘に対する思いは自分の方が深いと確信があります。
家出少女を泊めてお世話もしたし、他校への侵入事件にどう対応するかの相談にも乗ったし、学校から呼び出されて仕事の都合をつけて行ったし…。
そして、それ以外の時にも家出少女のことで悩んだ娘からのスマホへの相談メッセージにも、一生懸命考えて仕事の合間に返信していたのです。
もちろん、担任の先生もお友達も真剣に心配してくれます。
でも、心配の度合いは絶対に母である自分が一番だと自負しています。
なのに、母の言葉は響かず、他人の言葉で我に返るのか…と、なんともやりきれない思いがよぎるのです。
けれども、それは母の勝手な思いで、おそらく娘にも言い分はあるのでしょう。
当時から、だいぶ時間が経った今では、Cさんも
担任の先生やお友達にはできない期待を、母相手にはしてしまうのかな、と思いました。
だから、その期待に応えてくれない思いが、私の言葉を受け付けなかったのかな、って。
といっても、冷静に考えたらわかることだって思うんですけどね…。でも、娘もまだ成長途中の子どもで、しょうがなかったんでしょう。
どこか、母に対する甘えもあったのかもしれません。
と、思うようになったそうです。
その後、娘さんは希望する高校に入学し、安心して見ていられる友達関係を築いているそうです。そして、
もう学校に呼び出されるようなことをしたくないし、お母さんにも大変な思いをさせたなって思う。
今の友達からは本当に大切にされてるって感じるし、こういう友達付き合いをしていきたいって思ったよ。
と、また誕生日に「いつもありがとう!大好き!」というメッセージをくれるようになったそうです。
親として一生懸命、子どもに寄り添っていても、親子という近しい関係だと難しいことがあるんだな、と感じましたし、親以外に理解ある大人が周りにいること(ここでは担任の先生)って大切だな、と感じました。
そんなときでも、親として子に真摯に向き合い続けるしかないんだな…と感じたお話でした。