大学生の女の子のお子さんがいるDさんは、娘さんが高校3年生〜大学生1年生のころまで、彼氏(のちに元彼)のデートDV(交際相手から行われる暴力行為)に悩まされていました。
今は落ち着いて生活できるようになった…ということで、詳細なお話を伺わせていただけることになりました。
普通の彼氏がDV彼氏に変わったきっかけ
高校3年生になってすぐに同じクラスの男の子と付き合い始めたDさんの娘さん。
彼氏の方が、娘さんのことを大好きで、「かわいい」や「すごい好き」などの言葉と一緒に「付き合って」と言い続けて、お付き合いを始めたそうです。
なので、Dさんは、「愛されて付き合うなら、大切にしてもらえそうでよかったな」と思い、実際に3ヶ月程度は、そのとおりでよかったとのこと。
- 行きたいところなど、娘さんの希望を聞き、叶えようとする。
- 付き合い始めても「かわいい」と繰り返し褒める。
- 娘さんに悩みがあれば、真剣に聞いて、娘さんに寄り添いながら答える。
こんな様子だったそうなのですが…徐々に趣が変わってきました。
娘さんは優しい性格で、Noを言うのが苦手な性格。
最初こそ、娘さんの希望や思いに寄り添っていた彼氏ですが、娘さんが彼氏のことを尊重し続けていたら、徐々に自己中心的になっていったそうです。
- 行きたいところは、自分が行きたい場所優先。
- 娘さんが行きたい場所やイベントに行く日は、遅刻したりドタキャンすることも。
- 褒めるような言葉はなくなり、反対に「バカ」とか「ブス」とか言うように。
- 自分からの連絡にすぐに反応しなかったら暴言を吐くけれど、娘さんからの連絡は気が向いたら反応する。
- 男友達だけでなく、女友達のことも娘さんより優先するように。
- 娘さんには、携帯電話やSNSから異性の連絡先やフォロワーを削除するように言うのに、自分はしない。
こんな様子にケンカが絶えなくなってきました。
最初は優しかった彼氏がこんなふうに変わってしまったのは、娘さんが優しくてNoが言えない性格なので、調子に乗ってしまったのもあるでしょうが、結局、もともとその素質があったんだろうと思います。
それは、別れて、完全に離れるまでの出来事から、察することができました。
別れてほしいけれど、依存してしまう娘
高校生の子どもの恋愛事情に口を挟むのはよくないと思いつつ、夜になると自室で泣きながらケンカする声が聞こえてきたり、デートと言って出かけたのに「会えなかった…」と帰ってきたりする様子を見ると、
もう、そんな彼氏はやめて、別れなさい。
と、思わず言ってしまいました。
娘さん本人も、「もうダメかも。別れるかも」とは言うのですが、少しすると、
なんでって思うし、辛い気持ちになるんだけど、もう別れようって言うと、「俺が悪かった」って、泣きながらすごく反省したことを言うし、いいところもあるから、もうちょっとがんばってみようと思って…。
となってしまい、また似たようなことを繰り返すのです。
そして、よく言うのが
なんだかんだいって、私のことを一番わかってくれてるのは彼だし、話をしててもそう感じるし…。そういう存在って大切だから…。
という感じの内容です。
たしかに高校生活の話を聞いていると、娘さんの優しさやNoと言えない性格から、めんどうなことを押し付けられたり、グチを聞く役目になったりすることが多いそうです。
また、かわいらしいルックスでもあるため、僻まれるようなことを言われるときも。
そんな日々なので、ストレスを感じてしまうけれど、それをどうしていいかわからず、彼氏を頼るのですが、そういうときは暴言など吐かれることなく、話を聞いてくれるそうで、離れられない気持ちになってしまうのです。
そして、娘さん本人も彼氏に依存している自覚があったとおっしゃっていたそうです。
正直、複雑な気持ちでした。
だって、私もずっと話を聞いているし、相談に乗っているし、娘に寄り添ってるし…私の方がよっぽど娘を理解していると思うんです。
なのに、そんな普段、暴言を吐くような彼氏の方が、と言われてしまうなんて…。
と、おっしゃるDさん。
なんでそうなってしまったのでしょうか?
母である私の過干渉が問題だった…?
娘さんは、勉強は苦手だけど、ルックスは誰が見てもかわいらしくて、性格も優しく、おっとりしていて、男女ともに人気があるタイプ。
なのに、Dさん曰く、妙に自信が持てなくて、自己肯定感が低かったそうです。
中学生くらいまでは、それでも自分を否定するようなことは言っていませんでしたが、高校生になってから、「どうせ私はダメだから」とか、「私のことは諦めて」とか言うようになったとのこと。
たしかに勉強は苦手で成績はいまいちでしたが、それに対してもプレッシャーをかけることなく、励ましたり、娘さんの希望で家庭教師を依頼したりと寄り添ってきたつもりです。
ただ、あるとき、
私の顔見て笑いながら何か言われるのって嫌い。バカにしてるんだろうなって思って。
と言われたことがあったのです。
決してバカにしてなどないのですが、おっとりした性格の娘さんを愛らしく思っていたDさんは、微笑ましい気持ちでニコニコしながら「娘ちゃんは、こうだもんね」と言ったりすることがあったとか。
「娘さんのそんなところがチャームポイント」と思って言っていることでしたが、それがずっと誤解されていたのかもしれない…そう思いました。
さらに、「おっとりさんだから」と幼少期から娘さんの先回りをしていろんなことを手助けしてきたのですが、高校生にもなると、娘さんは、そんな母親を過干渉だと思うようになったし、自分ができないからそうするのか…と思っていたのです。
実際に、Dさんのお話を伺っていると、同じ母親としてわかる面もあり、どちらかというと過保護かな、と思いますが娘さんの年齢的にもたしかに過干渉と思える、と思う面も。
「こんなふうに思わせていてはいけない…」そう感じたDさんは、
- バカにしたことや、そう思ったことなど一度もないこと
- テストは苦手だけれど、先生やお友達から依頼されるイベントの準備などをしっかりこなすところなど、地頭は良いと思っていること
- だけど、いつもかわいいと思っていて、微笑ましい気持ちになるから、笑い顔になってしまっていたこと
- 教えればできることがたくさんあるのに、自分が手をかけてあげたいからと、先回りしてやってしまっていたこと
などを娘さんに真摯に話し、娘さんも「誤解してたかも…」と徐々にわかってもらえるようになりつつあったそうです。
ですが、まだ、その彼氏が「一番、自分を理解してくれている」という気持ちが拭えず、別れたり、復縁したりを繰り返しながら交際は続いていました。
とうとう警察沙汰に…
なんだかんだと続いてしまっている交際でしたが、日が経つにつれて、彼氏の暴言や遅刻・ドタキャンなども酷くなり、娘さんも徐々に「これじゃダメだ」と思ってはきていたそうです。
そんなときに、「付き合って半年」という娘さんにとっては大イベントで、彼氏もそれはわかってくれているはずのデートの日がやってきました。
それぞれの自宅から1時間ほど離れたデートスポットへ行く日です。
娘さんは、Dさんに、
これだけ大切だって言ってる日に遅刻や暴言があったら、もうさすがにムリかも。
そうしたら、デートやめて帰ってくる。そして、別れる。
と言いながら家を出ました。
Dさんは、「正直な気持ちは別れてほしい。けど、娘が傷つく状況になるのもツライ」そう思っていましたが、悪い予感は当たり、娘さんから電話がかかってきました。
お母さん…もうムリ…お願い、迎えにきて。
機嫌が悪いのはおまえのせいって言われて、軽くだけど蹴られて、財布を取られて、そのままどっか行っちゃった。
と聞いて、ビックリです。まさかそんなことになってようとは…。
急いで迎えに行ったところ、そのときには彼氏と一緒にいましたが、彼氏がDさんに向かって、
ちょっと、聞いてくださいよ。
コイツに何聞いたか知らないけど、全部、コイツのせいなんですよ。
などと言い始めたのです。
Dさんは、想定以上の彼氏の様子にビックリしましたが、
あなたの話は聞きません。
私は娘の味方だし、連れて帰るから、お財布を返してください。
と、毅然と言ったそうです。
しかし、また娘さんへの文句を言いながら、財布を返そうとしない彼氏に埒が開かないと思ったDさんは、「警察を呼びますよ」と言ったのですが、同意されてしまったそうです。
いいっすよ。
警察なら俺が悪くないってこと、わかってくれるから。
と、わけのわからない返事に戸惑いを感じていたら、ちょうど警察官が通りかかったのです。
そして、さらに応援の警察官も来て、財布を返すように説得してくれましたが、彼氏は変わらず、Dさんに「娘の悪いところの話聞けよ!」と言い続け、否定し続けたら、Dさんに向かって、殴りかかってきたとのこと…。
幸い、警察官の方々が止めましたが、そんなこともあり、娘さんは彼氏に暴力を振るわれた箇所にあざができており、場所を警察に移すことになりました。
そして、無事、財布は返ってきて、Dと警察官の説得で、娘さんも別れることに同意。
警察官からは、傷害で訴えることもできると言われますが、同じ学校であることと、自宅なども知られているため、報復が怖く、訴えることはしませんでした。
さすがに、娘さんも目が覚めたのでは…と思っていたDさんですが、実はそれでも、娘さんは「自分にも悪いところはあったんじゃ…」と帰り道に言っていたそうなのです。
しかし、よくよく話を聞いてみると、今までも病院に行くほどではないけれど、暴力を振るわれたことがあったとのこと。
さすがにもう復縁してほしくはないけど…と心配していましたが、警察から学校にも連絡が行き、普段厳しい担任の先生まで真剣に心配してくれたこともあり、娘さんも「これでよかったんだ」と徐々に納得するようになったのでした。
しかし、実はこれで終わらなかったのです。
また、元彼の言葉にほだされてしまう
付き合って半年記念のデート日に別れて以来、連絡先もブロックし、学校でも避けるようにしていたので、これで終わったと思っていたDさん。
しかし、高校の卒業式で元彼から声をかけられた娘さんは、状況的に避けることができなかったので話を聞いたら、「あのときは悪かった」と本当に反省している様子で言われたとのこと。
もともといいところもあって、好きで付き合っていた娘さんなので、元彼の「これからは友達としてよろしく」という言葉に「うん、わかった」と言ってしまうのです。
そして、卒業後は、娘さんから連絡することはないけれど、元彼から連絡が来たら返事を返すようにはなっていました。
それから半年ほどして、また事件は起きました。
なんと、元彼が夜に自宅の近くで待ち伏せしていて、「よりを戻そう」と言ってきたのです。
周りに人はおらず、しかも、元彼が暴力的なことを知っているので、娘さんは刺激したくなくて、諦めるまで話を聞こうと思ってしまったそうです。
すると、最初は復縁したいということを普通に話していた元彼ですが、途中から、軽く足を蹴ったり、首に手をかける真似をしてきたとのこと。
怖いと思いつつ、跡になるような感じではなかったため、我慢していたら、ライターやたばこの火を押し付ける真似までしてきたそうなのです。
さすがに怖くなり、泣きながら逃げようとしたら、向こうも我に返ったようなそぶりで、また「ごめん、俺が悪かった。もうしないから」などと謝り、帰っていったそうなのですが…。
今度こそ決着をつけるために
娘さんも今回は我慢していてはいけないと危機感を感じたらしく、Dさんにすぐに相談します。
そして、翌朝、親子で警察に相談に行ったそうです。
今回は、傷跡などがないことから傷害罪にはならないけれど、蹴ったり、たばこやライターの火を近づけられたりしたことから、暴行罪となるため、訴えることをおすすめされます。
ただ、やはり家を知られていることが怖いため、相談に留めて、可能であればパトロールなどを強化してもらえれば…とお願いしましたが、警察官の方に言われたのは、
待ち伏せされたそうなので、せめて、ストーカー規制法として扱い、警告だけでもしませんか?
みなさん、相談だけとおっしゃるのですが、それだけだと警察は動けません。そうすると、結局、何か起こってからの対処となってしまいます。
自分も年頃の娘がいて、本当にお母さんの気持ちがわかります。何かあってからじゃ遅いんです。そういう事件もたくさんあります。
「そう一生懸命、話してくださって、私も娘もそうしたほうがいいと思ったんです」とおっしゃるDさん。
今回は警告してもらうことにしました。
また、このように警察を頼ることで、「110番通報者登録制度」も利用させてもらうことができたそうです。
通常、110番通報すると、「事件ですか?事故ですか?」などの確認から始まりますが、登録者からの通報の場合、その過程を省き、迅速に動いてくださる制度だそうです。
このようなシステムは、警察に相談しないとなかなか知ることのない制度ですね。
▼警察によるDV・ストーカー被害者等への援助(「110番通報者登録制度」とは)
https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/kurashi/jinshinanzen/enjo/
上申書を書き、その日のうちに警察官の方が、元彼の自宅に警告に行ってくれたそうです。
そのときの様子は、反抗的な感じはなく、ちゃんと話を聞いている様子だったと、後ほど電話で教えてくれました。
さすがに自宅に警察官が来るような事態なので、もうこんなことはないだろう…そう思いたいですが、自宅を知られている恐怖は変わりません。
なんと、Dさんはすぐに引っ越しすることにしました。
さすがに当日の引っ越しは難しいため、引っ越しが決まるまでは、娘さんが帰ってくる際に、駅まで迎えに行くことに。
警察からは、不定期でしたが、何度か現況確認の連絡をもらい、「何かあったらすぐに連絡して」と精神的に支えてもらっていたそうです。
そして、約1ヶ月後に引っ越すことができ、落ち着くことができたとのことでした。
被害者が逃げなければならない理不尽さ
Dさん宅は、当時、賃貸に住んでたので、すぐに引越しを選択できたそうですが、持ち家の人はなかなかツライ状況です。
でも、実際に力を入れなかったとはいえ、首に手をかけるようなしぐさをされたと聞くと、命の危険も考えられます。
そうなると、たとえ、傷害罪やストーカー規制法などで訴えたりして、法律で制限ができたとしても、自分で身を守らなければ実害が出てしまうのです。
なぜ、被害者が逃げなければ…そんな理不尽な思いもありますが、Dさんは、
やっぱり引っ越してよかったです。
元彼が知らない場所で暮らしている安心感を考えたら。
お金もかかりましたが、命には変えられない…と思います。
とおっしゃっていました。
理不尽さに収まらない気持ちは正直あるものの、Dさん曰く、
警察の方々の熱心さには、すごく精神的に支えられたし、頼りになるって思いました。もし、今、悩んでいる人がいたら、警察の方が言うことに、ぜひ耳を傾けて考えてほしいと思います。
とのこと。
最近は、高校生や大学生のデートDVが増えてきているそうです。
▼NHK「デートDV 女性の6人に1人が経験 高校生・大学生の被害事例も 被害防ぐ難しさとは」
いきなり警察に相談することにハードルが高いと感じる方は、相談窓口もあるので、ぜひ、ご活用ください。
▼政府広報オンライン「”デートDV”を知っていますか?」
https://www.gov-online.go.jp/article/202402/entry-5667.html#fifthSection